生物学

日本ウミガメ協議会

-Sea Turtle Association of Japan-

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更新日 2017-02-24 | 作成日 2009-04-02

ウミガメ生物学

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種類・分類

ウミガメとは、爬虫網カメ目のうち、海に生息する種の総称です。現存種は、ウミガメ科5属6種とオサガメ科の1属1種で、そのうち、日本には、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイの3種が産卵に訪れ、ヒメウミガメとオサガメの2種も近海に来遊します。各種の主な特徴は以下の通りです。

世界におけるアカウミガメの産卵分布図
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○の大きさは相対的な産卵数を表しています。北太平洋(日本)の個体群が他地域のアカウミガメの産卵頭数に対して少ないことがわかります。また日本がこの広い北太平洋において唯一の産卵地だということもわかります。

アカウミガメ Loggerhead turtle (学名 Caretta caretta

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世界の大洋に広く分布するウミガメで、アメリカ東海岸、ブラジル、南アフリカ、ギリシャ、オマーン、日本、オーストラリア東岸などに主な産卵場がある。 日本の本州、四国、九州、沖縄の海岸線は北太平洋唯一の産卵場である。 体色は背面が褐色、腹面は淡黄色で、頭部が他のウミガメに比較すると大きく、英名の「loggerhead 」は、「頭でっかち」を意味する。

アオウミガメ Green turtle (学名 Chelonia mydas

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世界の大洋に広く分布するウミガメで、産卵場はコスタリカ、ギアナ、アセンション島、オーストラリ ア、フィリピン、マレーシア、ハワイ等熱帯海域を中心に各地に点在している。 日本では小笠原諸島、屋久島以 南の南西諸島で産卵が行われている。 体色は背面は黒に近い濃緑色、腹面は淡黄色である。上顎と下顎の縁辺部が、植物を食べやすいようにギザギザになっている。頭部はアカウミガメに比べて小さい。 食肉として利用されるウミガメの大部分は本種である。

タイマイ Hawksbill turtle (学名 Eretmochelys imbricata

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世界の熱帯海域に広く分布するウミガメで、産卵場はカリブ海、ミクロネシア、ポリネシア、インド 洋などの珊瑚礁の発達した海域の島嶼に広く点在する。 日本では沖縄島以南の南西諸島で産卵するが、その数は少ない。タカのように鋭い嘴を持つ。 体色は、背面が黄色の地に黒褐色のモザイク模様、腹面は黄色である。 背甲の鱗板は成長に応じて瓦のように重なり、縁辺部も尖る。この種の鱗板は鼈甲と呼ばれる。

オサガメ Leatherback turtle (学名 Dermochelys coriacea

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世界の大洋に分布する。産卵場はインドネシア、ニューギニア、ギアナ、スリナムなど熱帯海域が中心になるが、回遊によって、最も高緯度にまで出現する種である。 他のウミガメ類はウミガメ科に属するが、本種は1種で独立した科(オサガメ科)を形成する。 大きな鱗板で被われた強固な背甲をもたず、その独特の形態から、他種と区別するのは容易である。

ヒメウミガメ 0live ridley turtle (学名 Lepidochelys olivacea

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世界の大洋に熱帯海域を中心に分布する。コスタリカの太平洋岸やインド洋などでは、 集団で昼間に産卵が行われることがある。このような集団産卵はアリバダ(スペイン語で「到着」を意味する)と呼ばれ、本種とケンプヒメウミガメだけの特徴である。頭部は比較的大きく、 体色は背面はオリーブ色、 腹面は淡黄色で、他のウミガメ類より小さい。亜縁甲板には小孔が開口する。肋甲板は5対から9対。

ケンプヒメウミガメ Kemp's ridley turtle (学名 Lepidochelys kempi

カリブ海、メキシコ湾を中心とした西部北大西洋にのみ分布する。背甲はヒメウミガメに比べて、平べったく、幅も広くなる(ほぼ円型)。

ヒラタウミガメ Flatback turtle (学名 Natator depressus

flatbackturtle.jpg撮影場所:Curtis Island 撮影者:Melva Benstedさんhirataumigame_kogame.jpg
オーストラリア北部の沿岸域にのみ分布する。背甲の縁は陣笠のように反り返り、平べったい。

クロウミガメ Black turtle

kuro_umigame.gif背甲側kuro_umigame_fukukou.gif腹甲側
東太平洋に生息するアオウミガメ属のウミガメ。腹部や頭部の鱗板の縁辺部が、アオウミガメは黄色であるのに対し、クロウミガメは黒いことで区別される。しかし、分類学的にはアオウミガメの亜種Chelonia mydas agassiziiとする意見と、独立種Chelonia agassiziiとする意見がある。分類学的には正式な記載が行われておらず、手続き上、現時点で「種」として扱うことはできないので要注意。国内でも98年以降、八重山諸島を中心に発見が相次いでいる。

生活史  

ウミガメ類は、生涯のほとんど全てを海で過ごしますが、再生産、すなわち親ガメにとっての産卵と、子ガメにとっての誕生だけは砂浜が舞台となります。砂の中で孵化した子ガメは、地表へ脱出すると、大型の捕食者が多い沿岸をいち早く離れ、外洋を漂流する生活を送るようになります。但し、卵を大きくすることで子ガメが捕食される危険を減らすように進化したヒラタウミガメだけは、生涯を通じて比較的浅い陸棚海域で生活します。ウミガメをはじめて体系的に研究したフロリダ大学のアーチー・カールは、かつて、ウミガメが外洋で暮らしている間を「mystery of the lost year」と呼びました。私たちは陸上に暮らしているので、広い海へ散ってしまった子ガメを探したり追いかけたりするのはとても難しいのです。ウミガメのこの時期の生態については、一部の例を除き今でもほとんどが謎のままです。ある程度成長すると、アカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメ、ケンプヒメウミガメの若い個体は、外洋での生活を終えて沿岸や浅い海の特定の範囲の中で暮らすようになります。その後も、季節や成長に応じてすみかを変えていきます。外洋から戻ってくる時の体の大きさは、概して、タイマイ<アオウミガメ<アカウミガメ、また大西洋<太平洋、という傾向があります。これに対して、オサガメや一部のヒメウミガメでは、繁殖の時期を除き生涯を通じて外洋を放浪して暮らします。成熟した個体は、繁殖期になると普段生活している場所から産卵地へと移動します。その途中で、オスとメスが出会って交尾をします。メスは産卵期に繰り返し何度も同じ砂浜に上陸して産卵します。1シーズン中に9回産卵したという例もあります。産卵間隔は、体の大きなオサガメで短く(9日前後)、ヒメウミガメやケンプヒメウミガメで長くなる(1ヶ月前後)のを除けば、概ね2週間となります。メスは毎年繁殖するとは限りません。ヒメウミガメやケンプヒメウミガメでは1-2年おきに繁殖する個体が多く、他の種では2-3年おきに繁殖する個体が多いようです。オスについてはよく分かっていませんが、おそらく毎年繁殖すると考えられています。
aoumigame.jpgアオウミガメの産卵上陸メスの多くは、最初に産卵した砂浜に固執し、他の地域の砂浜に産卵地を変更する例はそう多くありません。ちょうど、このような性質が明らかになってきた頃、既にサケが生まれた川に戻って産卵すること(母川回帰)が分かっていました。そして、サケの回帰に関連させて、ウミガメも生まれた砂浜に戻って産卵するのではないかという仮説(母浜回帰説)が提唱されるようになりました。確かに、ヒメウミガメやケンプヒメウミガメのように特定の産卵地に集団で産卵する例を考えれば、そこは高い確率で生まれた砂浜なのでしょう。また、いくつかの種や個体群では、遺伝子を解析したところ、自分が生まれた地域の砂浜に戻って産卵しているとする証拠が見つかってきました。しかし、「母浜」という語が持つニュアンスの通り、生まれた特定の砂浜にピンポイントで戻っているかどうかまでは確認できていません。

形態・解剖

hosigame1.jpgホシガメnishinomiya-akakame.jpgアカウミガメウミガメは、海に適応した結果、陸で暮らす他のカメに比べて様々な点で異なっています。まず、最も明らかなのは四肢の形の違いです。上のリクガメの写真を見ても分かるように、陸で生活するカメの足は指があり、陸を歩きやすいようになっているのに対し、ウミガメの足は舟のカイのような形をしています。もちろん、これは海中を自由に泳ぐために発達させたものです。しかし、そのかわりメスが産卵の際、砂浜を歩くのは大変になってしまいました。また、カメの最も大きな特徴は、ドーム型をした頑丈な甲羅を持ち、危険に応じて頭や手足を甲羅の中に引っ込めることですが、ウミガメは頭や鰭状になった四肢を引っ込めることは出来なくなりました。ドーム型で頑丈な甲羅を背負っていては水の抵抗が大きくて、海の中では速く泳げません。そこで、ウミガメは甲羅を出来るだけ薄く、小さく、滑らかに変化させました。その結果、カメ特有の防御ができなくなったのです。手足を引っ込めるよりも、素早く逃げる方を選択した訳です。

カメの甲羅は、骨甲板とその上の角質甲板の二重構造になっていて、背中側の背甲とお腹側の腹甲からなります。骨甲板は脊椎骨や肋骨と一体化しています。リクガメでは隣り合う骨甲板同士は隙間無く頑丈に繋ぎ合わさりますが、ウミガメ類の場合は隙間だらけになっています。オサガメに至っては隣り合う骨甲板同士が接合することはありません。また、オサガメの場合には、角質甲板はなく、甲羅は薄い皮膚で被われています。
kokkaku_zu.jpg「ウミガメは減っているか(改訂版)p3」より オサガメを除くウミガメ類では、甲羅の上の角質甲板を含めて、体の表面は角質化した鱗、すなわち鱗板が被っていて、主要なものにはそれぞれ名称があります。鱗板のうち、前額板、下顎鱗板、肋甲板、亜縁甲板などは、ウミガメの種を同定するうえで決め手となる形質の一つです。
LinkIconウミガメの解剖マニュアル

摂餌

koshioriebi_baja.jpgコシオリエビ(メキシコバハカリフォルニア) 世界の大洋に分布するウミガメは、餌の食い分けによって競争関係を回避しています。つまり、オサガメはクラゲ類、アカウミガメは貝(軟体動物)やヤドカリ(節足動物)などの底生動物、アオウミガメは海草や海藻、タイマイはサンゴ礁に生息するカイメン、ヒメウミガメは小さい底生動物をたべるようです。また、外洋を浮遊して暮らしている子ガメのうちは、アオウミガメも含めて、浮遊性の小さな動物を食べていると考えられていますが、なかなか詳しいことまではわかっていないのが実状です。日本の沿岸はアカウミガメ、アオウミガメ、そして南西諸島はタイマイのエサ場となっています。

産卵行動

一般的に上陸したメスの行動は、上陸、ボディーピット、穴掘、産卵、穴埋、カモフラージュ、帰海の7つのフェーズからなり、途中で失敗がなければこの順に行われます。上陸は、波打ち際に姿を現してからボディーピットを始めるまでを指します。ボディーピットとは穴掘に先立ち、体が隠れる程度の穴を掘る行動で、アカウミガメ、ヒラタウミガメ、タイマイ、ヒメウミガメでは比較的浅く、アオウミガメ、オサガメでは、体が埋まるほど深い穴を作ります。穴掘は後肢を左右交互に使って洋なし型の卵室を掘る行為で、脚が届かなくなるほど穴が深くなると、引き続き産卵が始まります。種によって異なりますが、1回の産卵で、ざっと100-130個の卵を産みます(例外的にヒラタウミガメは50-55個程度です)。産卵が終わると穴埋が始まり、後肢を使って卵室を埋めていきます。引き続き前肢も使って前方の砂を後ろへ掃き飛ばし、ボディーピットを埋めていきます。いわゆるカモフラージュです。そして、海へと戻っていきます。一連の行動は早くても1時間を要します。
ウミガメが砂浜に上陸すると特徴的な足跡が残ることはよく知られていますが、歩き方や足跡が種ごとに異なることは御存知でしょうか。アカウミガメやタイマイでは左右の前脚を交互に動かして匍匐するのに対して、体が大きなアオウミガメやオサガメでは左右の前脚を揃えて動かして進みます。ちなみにオサガメは子ガメの時から左右同時ですが、アオウミガメは子ガメの時には左右交互に動かすのです。これは、体がある程度大きくなると、両脚同時に踏ん張らないと動かないからだと考えられています。
ashiato_zu1.jpgウミガメ3種の足跡 「ウミガメは減っているか(改訂版)p35」よりこのように特徴的な足跡を残しながら、ウミガメはより高い位置へと上がっていきます。通常は植生帯や護岸などの障害物に当たるまで進み、そこでようやくボディーピットを始めます。必然的に産卵巣は植生帯付近に集中することになります。植生がない護岸むき出しのところではよく護岸に沿って亀が右往左往し、植生も護岸もない場合には浜の表面が凸凹になるところまで上がっていくことが多いようです。平らな部分は波に洗われているということで、卵が冠水したり流されたりする危険が高いのに対して、植物が生えていたり他の個体のボディーピットが残っているようなところは安全というわけです。

発生

ウミガメ類の卵はピンポン玉のような形をしていて、軽く圧すと凹んでしまいます。卵の大きさは種や地域や個体によって異なります。一番大きな卵を産むのはオサガメで、直径は51-55mmほどにもなります。ヒラタウミガメも、直径50-52mmの大きな卵を産みます。アオウミガメでは40-46mm、アカウミガメでは39-43mm、ヒメウミガメでは37-42mm、一番小さいのはタイマイの卵で、直径32-36mmです。
羊皮紙状の卵殻は弾力に富んでいて、産卵時の衝撃に耐えられるようになっています。発生が進行すると卵殻の頂上付近から次第に白亜色になっていき、やがてそれは卵全体に及びます。このとき、胚は卵殻の内側に固着するので、一旦発生の始まった卵の天地を逆転したり、振動を加えたりすると、胚は死んでしまいます。
卵から子ガメが無事に孵えるためには、環境条件も適切でなければなりません。温度は24℃から33℃の範囲を超えると極端に孵化率が低下します。産卵時には凹んでいた卵も、発生が進につれて卵は周囲の水分を吸収することで膨らんでいきます。もし周囲の砂が乾燥していたり、濃い塩分を含んでいたりすると、卵は水分を失い、胚は死んでしまいます。逆に、砂が水分を含みすぎているのも問題です。生きている胚は卵殻の小さな穴を通じて酸素を取り込み、二酸化炭素を排出しています。浜が水没して砂の隙間が水に浸かったままだと卵はガス交換ができなくなるので、胚は窒息してしまいます。
kogame_hassei2.jpgアカウミガメの発生過程胚の発生速度は、ほとんど温度によって決まり、温かければそれだけ早く成長します。一定温度にして発生の過程をたどると、孵化期間の40%くらいで、ようやく背甲ができてカメらしくなります。しかし、胚は1cmにも満たず、卵の大部分はまだ卵黄が占めています。その後、次第に色素が沈着したり、鱗板が形成されたり、四肢が伸張したりしながら、胚は全体的に成長していきます。孵化期間の80%ほどになると、胚と卵黄がほぼ同じ大きさなります。胚は卵の中で少し窮屈になり、以後、背中を丸め、腹甲を少し折り曲げながら成長してきます。やがて孵化間近になると、鼻先に卵角と呼ばれる小さなトゲができて、殻を突き破って孵化するために準備が整います。

孵化と脱出

taimai_dashutsu.jpgタイマイ孵化幼体の脱出砂の中に産み落とされた卵から、早ければ産卵後40日あまり、遅くても80日ほどで子ガメが孵化します。孵化直前の卵の中で、半分は子ガメが占めていますが、残りの半分は羊水や老廃物を含む水分です。子ガメが卵の殻を破って外に出るときに、この水分は下へこぼれ、卵の殻は潰れてしまうので、巣穴の中には余分な空間ができます。この空間の中で、残りの卵黄を吸収し終えた子ガメが動きだすと、それが刺激になって他の卵からも次々と孵化します。子ガメ達の動きが大きくなると天井の砂が徐々に崩れ落ちます。その中を這い上がり、また天井の砂が崩れる、といった行程を繰り返し、子ガメ達は兄弟力を合わせて40~50cm上の地表を目指します。
地表へ向かった子ガメは、闇雲に掘り進むわけではありません。多くの場合は、10cmほどの深さまで到達すると一旦そこで待機して夜になるのを待ちます。昼間は目がよく利く大型の捕食者が空からも海からも子ガメを狙っていますし、仮に捕食者が居なくても、暑さのために死んでしまうからです。昼間でも激しく雨が降った後などには脱出することがあることから、子ガメは温度の低下を砂が冷えてきたのを手掛かりに脱出のタイミングを見計らっていると考えられています。

shima_monitor.JPG9月2日(金)午後6時頃
深さ30cmのカメラが微かな動きをとらえた。モニターに映った画像を説明する島研究員。


gage2.JPG9月4日(日)午前5時頃
産卵巣を守る金網と観測計器類の点検をするスタッフ。


monitormae.JPG9月4日(日)午前6時頃
天気の良い日曜の朝とあって、ぞくぞくとモニターの前に人が集まる。


hanamichi.JPG9月4日(日)午後6時
脱出の花道横で思い思いのスタイルで待機する。


monitor2.JPG9月4日(日)午後8時頃
台風14号の影響で雨が本格的に降り始めるもほとんどの人が今夜の脱出を期待してモニターを見つめ続ける。


gage1.JPG9月5日(月)午後6時頃
午後6時前に1匹の子ガメが脱出し、金網周辺に人が集まり始めた。本格的な脱出はこの1時間後。


fukachousa.JPG9月5日(月)午後10時頃
子ガメの脱出を確認後、卵殻を掘り出して孵化率の調査を行った。


gage3.JPG9月6日(火)午前10時頃
機材の片付けも終わり、産卵巣を守っていた金網だけが残る。


shima.JPG9月6日(火)午前10時頃
現場を離れる前に最後の取材を受ける島研究員。

子ガメの分散

kogame_oyogu2.jpg暗闇の中で脱出した子ガメたちは、仄かに海の方が明るいことを手がかりにして、一気に海へと向かいます。そして、海に入ってからは、波に逆らって泳ぎます。脱出してから約24時間だけは、休むことなく泳ぎ続けます。このような習性は、少しでも大型の捕食者が多い沿岸域からいち早く遠ざかり、保育場に運んでくれる海流に乗って生き残るために役立つと考えられています。また、ウミガメには地磁気の変化を感じる能力があるのですが、砂浜の上を進んだり、波に逆らって一定方向に進み続けたりする間に、その基準となる磁場が刷り込まれるのです。ウミガメは、生涯を通じて大洋を大回遊しますが、地磁気コンパスを積極的に活用しているとする証拠がたくさん見つかっています。したがって、子ガメが脱出してから海に入って行くまで間は、単に生まれた砂浜を後にして海へ旅立つというだけではなく、その個体の将来にまで深く影響する能力の獲得が行われる過程でもあるのです。

成長

他の多くの動物と同じように、ウミガメも生まれて直ぐは急激に成長しますが、次第に穏やかな成長に変わっていきます。成熟して一旦繁殖を開始するとほとんど成長せずに、繁殖のためにエネルギーをまわすようになります。生まれたばかりの子ガメを飼育して成長を調べてみると、水温を高くするほど餌をよく食べ、早く成長します。条件さえよければ、成熟するまで5-6年ということもあります。しかし、野外では常に餌が豊富にあるとは限りませんし水温も変化しますから、もっとゆっくりと成長することになります。例えば北大西洋のアカウミガメの場合、外洋での生活を終えて沿岸に戻ってくるときには曲甲長で46~64cmになっていますが、この時の年齢は7~12歳で、産卵するようになるのは、ほとんどが25歳以降だと考えられています。


カメの涙(塩分代謝)

namida.jpgアカウミガメの涙砂浜に上陸したウミガメは目をうるませています。お産の苦しさから泣いているようにも見え、なんとも同情を誘うものです。しかし、この涙のような液体の正体は、塩類腺という器官から出てくる塩水で、体の中の余分な塩分が濾しだされたものなのです。
ウミガメが餌にしている無脊椎動物や海草、海藻は、海水と同様にウミガメの体液の約3倍の塩分濃度があります。そこでウミガメは餌と一緒に余計な塩分まで取ってしまいます。脊椎動物の体の中では塩分濃度が一定に保たれていて、濃度が高くなりすぎたり低くなりすぎたりすると体を構成している細胞が壊れてしまうので、この余計な塩分を排泄しなければなりません。ウミガメはこの塩分を濾し出すための特殊な器官を発達させました。それが塩類腺です。ここから海水の約2倍の濃さの塩水を排泄することができます。ウミガメの塩類腺は涙腺から派生したもので、目の後ろ側に位置します。頭蓋骨の中でかなり大きな空間を占めており、オサガメの場合は脳の約2倍もの大きさになります。塩類腺の分泌管の開口部は目尻にあるために、その分泌物が涙のように見えるわけです。他にも塩類腺が備わっている動物がいますが、別の分泌腺から派生しており、ウミヘビやワニの場合には涙ではなくてよだれに、ウミイグアナや海鳥の場合には鼻水になってしまいます。もしウミガメがよだれや鼻水を垂らしながら産卵したなら、これほどまでに愛されなかったのではないでしょうか。自然は時々粋な計らいをするものです。

交尾

ao_koubi.jpgアオウミガメの交尾(場所:奄美大島瀬戸内海峡)交尾は海で行われます。雄ガメは雌ガメの後ろから抱きかかえるようにして、尾部を雌の腹部に回しこみます。尾部の総排泄腔からペニスが出てきて、雌の総排泄腔に挿入されます。交尾時間は長く、10時間以上に及ぶこともあります。交尾したのち産卵しますが、交尾、精子、受精のメカニズムはまだ不明な点が多いようです。ただし、1回の産卵で出てきた赤ちゃんガメ達には複数のお父さんがいたことが、DNAの研究で判っています。でも、お父さんが1人のこともあります。

性決定と性判別

aka_penis.jpgアカウミガメ雄の尾部aka_male.jpg雄のアカウミガメウミガメのオスとメスは、尾の長さで見分けることができます。メスの尾は長くてもせいぜい背甲の後縁まで達するか達しないかの程度であるのに対して、オスの尾は太く、背甲の後ろに長く突き出します。また、オサガメを除き、オスでは前肢の爪が大きく曲がります。これは、交尾の際にメスの背甲の肩口の部分に引っかけるためです。その他に、オスでは腹甲が窪み気味になります。これも、メスの背甲にのし掛かった状態で安定するためです。
aka_female.jpgアカウミガメ雌の総排泄腔aka_young.jpgアカウミガメ亜成体の総排泄腔成熟したウミガメは尾の長さで簡単に雌雄を見分けることができますが、尾の短い個体を見つけても、それがメスであるのか、それとも未成熟のオスなのかを外見だけで区別することは、とりあえず今のところ不可能です。どうしても性を確認したい場合には、腹腔内を内視鏡で覗き生殖腺を観察してみたり、血液を採取して微少な性ホルモンの量を調べるといった、少し手の込んだ作業が必要となります。
では、なぜそこまでして性を調べる必要があるのでしょうか?それは、ウミガメには卵の時に経験する温度によってオスになるかメスになるかが決まるという特徴(温度依存性決定)があり、例えば、急激な気候変動の影響などでオスとメスの比率がどちらか一方に偏ってしまうことが心配されているからです。具体的には、発生の中期に経験する温度が高いとメスになり、逆に低いとオスになります。オスになる確率とメスになる確率が等しくなる温度は臨界温度と呼ばれ、種や個体群によって微妙に異なりますが、概ね29℃前後となっています。例えばアカウミガメの場合、最近は世界各地でオスよりメスがたくさん生まれていることが明らかになっています。

seibetsusheet3.jpgウミガメの雌雄判別シート
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寿命

「亀は万年」とも言うように、カメは長寿のシンボルですが、実際にはどのくらい長生きなのでしょうか?これまで確認されている最も長寿の記録は、フランスの探検家がセーシェル島で捕獲してモーリシャスへ持ち込んだゾウガメで、152年間飼育されたというものです。ウミガメではこれほど古くから飼育されてきたという例はありませんが、徳島県日和佐町のウミガメ博物館では1950年に地元の中学校の研究グループが卵から孵化させたオスのアカウミガメが今日に至るまで飼育されていますから、少なくとも55年は生きるのでしょう。万年では大袈裟ですが、人間に比べても長生きであることは間違いないようです。

病理と健康管理

飼育下では個体の健康管理が問題となります。例えば、子ガメを飼育する場合に特に問題なのが、咬み合いによる外傷性潰瘍性皮膚炎です。病変部から感染をおこし、多くの個体が死亡することもあります。1歳を越えると咬み合いも減り、死亡する個体もぐっと減ります。他に、潰瘍性胃炎が原因で、乾酪性-化膿性物質が口腔内に栓塞し、閉塞性鼻炎と肺炎が合併する例も多いようです。これらの疾病に羅感すると、体の平衡を失い、呼吸困難に陥ってしまいます。
一般的に、野生個体では飼育個体に比べて細菌性疾患がみつかる例は少ない一方で、吸虫などに寄生される例は多いようです。オーストラリアや、八重山で調べた研究では、いずれも7-8割の個体の臓器からHapalotrema 属の吸虫が見つかっています。
fibro_aoumigame.jpg西表島で発見されたフイブロパピロマ疾患のアオウミガメの漂着死体その他に、野生個体で特に注目されているのは、フィブロパピロマ(fibropapilloma)と呼ばれる奇病です。これは、鼠けい部、首や目の回り、口腔内、および内臓などに、1cmから30cmほどのカリフラワー状の腫瘍ができる疾病で、1938年にフロリダではじめて見つかった後、1980年前半になってからフロリダとハワイのアオウミガメで再発見され、現在では日本も含め、世界各地で見つかっています。ら感個体の大部分はアオウミガメですが、アカウミガメやヒメウミガメで見つかる例もあります。腫瘍が大きくなると視覚や摂餌が阻害されたり、漁網に混獲されやすくなるなどの弊害があります。以前は、死に至る不治の病と考えられていましたが、最近の研究では、自然治癒することも分かってきました。線維乳頭腫関連ウミガメヘルペスウイルスへの感染が原因と考えられていますが、詳しくはまだ分かっていません。

遺伝子を使った研究

他の動物と同様に、ウミガメ類でもその生態を理解する上で、遺伝子解析は有効な手段となっています。例えば、ミトコンドリアという細胞内小器官の中にある遺伝子のうち、特に変異に富んでいる領域について注目すると、特定の地域集団に特徴的なパターンが見つかることがあります。北太平洋のアカウミガメは日本で産卵する個体群とオーストラリアで産卵する個体群がありますが、ミトコンドリアの遺伝子を調べると両者を区別することができます。カリフォルニア半島周辺では甲羅の長さで40~55cmほどのアカウミガメが多く見つかりますが、同じ方法で調べてみると、これらは日本生まれであることが分かってきました。
また、遺伝子解析による親子判別の手法を応用することで、ウミガメの繁殖システムについて明らかになってきました。ウミガメは一度に100個前後の卵を産みますが、そこから生まれる子ガメは同じ母親から生まれても、もしかすると父親は別々かも知れません。メスとその個体が産んだ卵から生まれた子ガメ達の遺伝子を分析して、子ガメ達の父親が少なくとも何個体いたかを調べるというやり方です。その結果、多くの種や個体群で複数父系であることが確認されています。以前から、1組の交尾中の雌雄に、複数のオスが群がったり、のし掛かったりする光景がダイバー達によって目撃されてきましたが、遺伝子解析の結果はこれと一致したわけです。

進化

現在までに化石が見つかっている最古のカメは、三畳紀後半(約2億1000万年前)に出現したプロガノケリス(Proganochelys)と呼ばれるもので、このカメにはまだ上顎に歯が備わっていました。ジュラ紀(約2億800万年前~1億4500万年前)になると、海で暮らしたと思われる種が出現してきます。カメ目は頸を横方向にS字型に折り畳む曲頸亜目と、縦方向に畳む潜頸亜目とよばれる2つのグループに分けられますが、白亜紀になると曲頸亜目から多くのウミガメ類が出現しては消えていきました。一方で潜頸亜目からもウミガメ科とオサガメ科を含め、多くのウミガメ類が出現しています。その中で、7500万年前に出現したアルケロン(Archelon)は最も巨大なウミガメ類で、全長は4.5m、体重2~5トン、頭だけでも長さ1mありました。強力な顎でアンモナイトを食べていたと考えられています。現存種の化石も、300万年も前の地層から見つかっています。
hone.jpgアオウミガメの頭骨化石で見つかる爬虫類を分類するときに、頭骨を見て、目の後ろにある穴(側頭窓)の数で大きく3つのグループに分ける方法があります。すなわち、無弓類、単弓類、双弓類です。無弓類は最も原始的なグループ、単弓類は哺乳類へと進化したグループ、双弓類からは現存する爬虫類や恐竜、鳥類などが出現しました。カメの場合は側頭窓がないことから、原始的な無弓類とされていました。しかし、最近では、カメも双弓類であり、ただ側頭窓の隙間を埋めるように進化したものであると考えられています。