ウミガメについて知りたい
ウミガメの教科書(初級編)
ウミガメにとっての脅威
ウミガメたちの生存と種の存続の脅威として、以下のような問題が挙げられます。
海洋汚染
人類の産業活動によって生産されたダイオキシンなどの塩素系化合物や、水銀、カドミウム、砒素などの重金属、放射性物質、環境ホルモンなどが、ウミガメの生理、行動、生殖などに与える影響が心配されています。近年、発展の著しい中国を中心とする東アジア諸国から排出される汚染物質の環境に対する影響を、東シナ海を回遊するウミガメを使ってモニタリングしようとする試みが進められています。
また、ウミガメがゴミを餌と間違えて飲み込み、多くは排泄されるのですが、希に消化管に詰まらせて死亡することがあります。また、砂浜に打ち上げられたゴミは、産卵や孵化した子ガメの帰海を妨げることもあります。産卵シーズンには、地元住民の方々や行政担当者によって、海岸清掃が繰り返されますが、ゴミは次から次へと流れ着きます。それらのゴミの中には近隣諸国から排出されたものも多く見受けられ、海洋のゴミは国際問題となっており解決を困難にしています。
消化管内で見つかったプラスチックゴミ
砂浜の消失や荒廃
ウミガメにとって、産卵場である砂浜は種を存続していく上で重要であることは言うまでもありません。しかしその砂浜は、埋め立てや護岸工事などで次々と失われ、消失を免れた砂浜にも人為的な改変が加えられて、原始の姿をとどめる自然海岸はもはや貴重となってしまいました。各地のウミガメの産卵場は、砂の減少や周辺の喧噪、光害(※)などによる環境の荒廃のような様々な問題を抱えています。
※光害
産卵場の周辺から届く光による、ウミガメの産卵・上陸行動や孵化・脱出後の子ガメの行動を阻害する影響として、産卵・上陸行動の中止や子ガメの迷走(海とは違う方向へ向かう)などが知られています。ウミガメは、青い光(短波長)によく反応し、赤い光(長波長)には鈍感であるといわれています。海岸近くの街灯などに低圧ナトリウム灯を用いることによって、ウミガメに対する影響を軽減することができ、各地で採用されるようになっています。
参考:「Sea Turtle and Lighting」B. E. Witherington and R. E. Martin, 1996
消波ブロックにはさまり息絶えたウミガメ
※光害
産卵場の周辺から届く光による、ウミガメの産卵・上陸行動や孵化・脱出後の子ガメの行動を阻害する影響として、産卵・上陸行動の中止や子ガメの迷走(海とは違う方向へ向かう)などが知られています。ウミガメは、青い光(短波長)によく反応し、赤い光(長波長)には鈍感であるといわれています。海岸近くの街灯などに低圧ナトリウム灯を用いることによって、ウミガメに対する影響を軽減することができ、各地で採用されるようになっています。
参考:「Sea Turtle and Lighting」B. E. Witherington and R. E. Martin, 1996
夜間でも明るい砂浜
海に光が漏れない照明の設計
漁業
ウミガメの個体数が減少した原因のひとつとして、外洋でのマグロ延縄漁や流し網漁などによる混獲にあったことが世界的に認識されており、漁法や操業海域の規制により成果が現れはじめています。沿岸でも様々な漁法によってウミガメは混獲されていますが、ほとんどは生きたまま放流されています。しかし、底引き網や中層定置網、刺し網などで混獲されて死亡している個体も少なくありません。その情報は少なく、危険な漁法と操業海域、操業時期などを特定することが急務となっています。また、底引き網などによる漁場の環境の荒廃と水産資源の枯渇は、ウミガメにとっては餌生物の減少としてその影響が危惧されています。
漁師に救助されるウミガメ
誤った自然保護(卵の移植・人工孵化・放流会)
これまでウミガメの保護を謳った卵の移植と人工孵化、子ガメの放流会が、各地で行われてきました。日本ウミガメ協議会では、それらの保護効果について否定的に考えています。その理由は以下のとおりです。
1)これまで知られている人工孵化による孵化率は、ほとんどが50%程度かそれ以下であり、明らかに自然下での孵化率を下回っているのが現状です。人工孵化による孵化率が、自然状態での孵化率を保証しない以上、人工孵化はむしろ逆効果であり、その検証は最低限必要であるはずですが、それさえもほとんどなされておらず、そのような状況下での人工孵化は行うべきではないと考えています。
2)ウミガメは卵の時期に過ごす温度環境によって性が決まりますが、卵を人工孵化場や砂浜の別の場所に移植することによって、当然砂の中の温度をはじめとする環境は変わりますので、性の決定だけでなく、発生や孵化後の成長に与える影響が心配されます。
3)人工下で孵化した子ガメは、放流まで飼育することになりますが、水族館や研究施設以外で良好な飼育環境を準備するのは難しく、子ガメが死亡したり、病気になったりしてしまう可能性が高いと思われます。なんとか放流にこぎつけても、その後の生存や成長に対する影響も心配されます。
4)人工孵化個体の放流の多くは、教育目的の放流会と称して日中行われていますが、夜間の自然孵化に比べて、子ガメが捕食される確率が高くなると考えられます。
5)孵化直後の活発に前肢をバタバタさせる(フレンジー)時期を逃すと、遊泳力が低下し、速やかに沖に出ることができなくなってしまいます。
6)砂から脱出したカメは海を目指して一目散に移動しますが、最近の研究ではその過程で移動している方角と磁場との関係を学習すると言われています。しかし、人の手によって放流した場合、その学習を正常に行っていないために、沖に向かってうまく泳げない可能性があります。
2)ウミガメは卵の時期に過ごす温度環境によって性が決まりますが、卵を人工孵化場や砂浜の別の場所に移植することによって、当然砂の中の温度をはじめとする環境は変わりますので、性の決定だけでなく、発生や孵化後の成長に与える影響が心配されます。
3)人工下で孵化した子ガメは、放流まで飼育することになりますが、水族館や研究施設以外で良好な飼育環境を準備するのは難しく、子ガメが死亡したり、病気になったりしてしまう可能性が高いと思われます。なんとか放流にこぎつけても、その後の生存や成長に対する影響も心配されます。
4)人工孵化個体の放流の多くは、教育目的の放流会と称して日中行われていますが、夜間の自然孵化に比べて、子ガメが捕食される確率が高くなると考えられます。
5)孵化直後の活発に前肢をバタバタさせる(フレンジー)時期を逃すと、遊泳力が低下し、速やかに沖に出ることができなくなってしまいます。
6)砂から脱出したカメは海を目指して一目散に移動しますが、最近の研究ではその過程で移動している方角と磁場との関係を学習すると言われています。しかし、人の手によって放流した場合、その学習を正常に行っていないために、沖に向かってうまく泳げない可能性があります。
『子ガメの定位能力と航海』ケネス・ローマン(ノースカロライナ大学)
卵や肉の食用
地方においては、ウミガメの卵や肉は貴重な蛋白源として食用にされてきました。しかし、現代人の食生活の変化に伴いその食文化は多くが失われており、ウミガメにとってはもはや大きな脅威ではなくなっています。しかし、科学的根拠のない滋養や効能が宣伝されて珍重され、都市部において高値で流通している現状があるのも事実です。
海外の露店で販売されるウミガメの卵
卵の食害
ウミガメの卵は、タヌキやイノシシ、ヘビなどに食害されることが知られていますが、これら野生動物による食害は、太古の昔から続いてきたことであり、ウミガメを絶滅に追いやる心配は小さいと考えています。しかし、野犬や座間味島で知られる移入動物であるイタチによる食害などの被害は深刻であり、その対策に苦慮しているところです。
病気
ウミガメの病気についてはあまり知られておらず、研究も進んでいないのが実状です。
海上での事故
沿岸の海上交通量はどんどん増えていて、特に内湾や港湾の近く、海峡部などでは、ウミガメが往来する船舶との事故に遭遇する確率が高くなっています。事故が直接の死亡原因かどうかは断定できませんが、漂着または漂流死体には、衝突の時にできたとみられる傷跡や、スクリューに巻き込まれたとみられる体の一部の欠損などが、認められることがあります。