ウミガメの教科書(上級編)
性決定
ウミガメ雄の尾部
ウミガメ雌の総排泄腔
ウミガメのオスとメスは、尾の長さで見分けることができます。メスの尾は長くてもせいぜい背甲の後縁まで達するか達しないかの程度であるのに対して、オスの尾は太く、背甲の後ろに長く突き出します。また、オサガメを除き、オスでは前肢の爪が大きく曲がります。これは、交尾の際にメスの背甲の肩口の部分に引っかけるためです。その他に、オスでは腹甲が窪み気味になります。これも、メスの背甲にのし掛かった状態で安定するためです。
成熟したウミガメは尾の長さで簡単に雌雄を見分けることができますが、尾の短い個体を見つけても、それがメスであるのか、それとも未成熟のオスなのかを外見だけで区別することは、とりあえず今のところ不可能です。どうしても性を確認したい場合には、腹腔内を内視鏡で覗き生殖腺を観察してみたり、血液を採取して微少な性ホルモンの量を調べるといった、少し手の込んだ作業が必要となります。
では、なぜそこまでして性を調べる必要があるのでしょうか?それは、ウミガメには卵の時に経験する温度によってオスになるかメスになるかが決まるという特徴(温度依存性決定)があり、例えば、急激な気候変動の影響などでオスとメスの比率がどちらか一方に偏ってしまうことが心配されているからです。具体的には、発生の中期に経験する温度が高いとメスになり、逆に低いとオスになります。オスになる確率とメスになる確率が等しくなる温度は臨界温度と呼ばれ、種や個体群によって微妙に異なりますが、概ね29℃前後となっています。例えばアカウミガメの場合、最近は世界各地でオスよりメスがたくさん生まれていることが明らかになっています。